一三六五智海法印癩人と法談の事
原文
- `これも今は昔智海法印有職の時清水寺へ百日参りて夜更て下向しけるに橋の上に
- `唯円教意
- `逆即是順
- `自余三教
- `逆順定故
- `と云ふ文を誦する声あり
- `尊き事かな
- `いかなる人の誦するならん
- `と思ひて近う寄りて見れば白癩人なり
- `傍らに居て法文の事を云ふに智海ほとほといひまはされけり
- `南北二京にこれほどの学生あらじ物を
- `と思ひて
- `何れの所にあるぞ
- `と問ひければ
- `この坂に候ふなり
- `と云ひけり
- `後に度々たづねけれど尋ね逢はずして止みにけり
- `もし化人にやありけん
- `と思ひけり