一六六八了延房に実因湖水の中より法文の事
原文
- `これも今は昔了延房阿闍梨日吉の社へ参りて帰るに唐崎の辺を過ぐるに
- `有相安楽行
- `此依潅観思
- `と云ふ文誦したりければ浪中に
- `散心誦法花
- `不入禅三昧
- `と末の句を誦する声あり
- `不思議の思ひを成して
- `いかなる人のおはしますぞ
- `と問ひければ
- `奥房僧都実因
- `と名のりければ汀に居て法文を談じけるに少々僻事ども答へければ
- `これは僻事なり
- `いかに
- `と問ひければ
- `よく申すとこそ思ひ候へども生を隔てぬれば力及ばぬ事なり
- `我なればこそこれほども申せ
- `と云ひけるとか