三一一六堀川院明暹に笛吹かせ給ふ事
原文
- `これも今は昔堀川院の御時奈良の僧どもを召して大般若の御読経行はれけるに明暹この中に参る
- `その時に主上御笛を遊ばしけるが様々に調子を替へて吹かせ給ひけるに明暹調子毎声に違へずあげければ主上怪しみ給ひてこの僧を召しければ明暹ひざまづきて庭に候ふ
- `仰せに依りて昇りて簀子に候ふに
- `笛や吹く
- `と問はせおはしませければ
- `形の如く仕り候ふ
- `と申しければ
- `さればこそ
- `とて御笛給びて吹かせられけるに万歳楽をえもいはず吹きたりければ御感ありてやがてその笛を給びてけり
- `件の笛伝はりて今八幡別当幸清が許にありとか
- `件笛幸清進上㆓当今㆒建保三年也