一一一三四丹後守保昌下向の時致経父に逢ふ事
原文
- `これも今は昔丹後守保昌国へ下りける時与佐の山に白髪の武士一騎逢ひたり
- `路の傍らなる木の下に打入りて立ちたりけるを国司の郎等ども
- `この翁など馬より下りざるぞ
- `奇怪なり
- `咎め下ろすべし
- `と云ふ
- `爰に国司の曰く
- `一人当千の馬の立てやうなり
- `尋常にはあらぬ人ぞ
- `咎むべからず
- `と制して打過ぐるほどに三町ばかり行きて大矢の左衛門尉致経数多の兵を具して逢へり
- `国司会釈する間致経が曰く
- `爰に老者一人逢ひ奉りて候ひつらん
- `致経が父平五大夫に候ふ
- `堅固の田舎人にて子細を知らず無礼を現じ候ひつらん
- `と云ふ
- `致経過ぎて後
- `さればこそ
- `とぞ云ひけるとか