二二丹波国篠村に平茸生ふる事
現代語訳
- `これも昔の話、丹波の国篠村というところに長年平茸が途方もなく生えた
- `里の者はこれを採り、人に分けたり自分も食べたりなどして数年が過ぎていたころ、その里の長が夢で、髪の毛がつかめるくらいに伸びた法師が二、三十人ほど現れて
- `お話があります
- `と言う
- `いったいどなたか
- `と問えば
- `この法師たちは長い間宮仕えをしておりましたが、この里との縁も尽き、これからよそへ行くことになったので、安堵しつつも名残惜しく思っているのです
- `事の次第を申さなくてはいけないと思い、それを話しに来ました
- `と言ったと見て目が覚め
- `どういうことだろう
- `と妻や子供らに語れば、彼らや里人も、夢で
- `同じように見えた
- `と、大勢が同様に語るので、わけがわからず、そのまま年も暮れた
- `そして次の年の九・十月ともなり、毎年生える時期を迎えたので、山に入って茸を探したが、茸の類は少しも見当たらなかった
- `どういうことなのか
- `と里の者が不思議に思いながら過ごしていると、今は亡き仲胤僧都という説法の名人が現れた
- `この話を聞いて
- `まったくどういうことか
- `不浄な説法をする法師が平茸に生まれ変わったことさえあるというのに
- `と言った
- `だから、なにも決して平茸は食わなくても困らないということである