七七龍門の聖鹿に代はらんとする事
現代語訳
- `大和の国の龍門という所に聖がいた
- `住んでいる所を名にし
- `龍門の聖
- `と言った
- `その聖と親しい男が、鹿を火で誘う照射という狩りをして日夜鹿を殺していた頃のこと、とても暗い夜、照射に出かけた
- `鹿を探し歩いていると、目を合わせたので
- `鹿がいた
- `と火串を振り回せば、たしかに目を合わせた
- `矢頃の間合いをとり、火串を引っかけ、矢を番えて射るべく弓を引き起こして見るに、この鹿の目の間隔が普通の鹿の目より狭く、目の色も違っていたので
- `どうも妙だ
- `と思い、弓を引きやめてよく見たが、やはり妙に思え、矢を外し、火をかざして見ると
- `鹿の目でないことがわかった
- `と見て
- `起きるなら起きろ
- `と思い、近くへ回し寄せて見れば、身は一張りの革であった
- `やはり鹿だ
- `と、また射ようとしたが、やはり目が違うので、さらに近寄って見れば、法師の頭と見た
- `どういうことだ
- `と、走り寄り、火を吹き芯を折って明るくして見ると、この聖が瞬きをして、鹿の革を被って伏していたのだった
- `これはいったい
- `どうしてこんなことをしておられるのですか
- `と言うと、ほろほろと泣いて
- `おぬしは、制するのも聞かず、よく鹿を殺す
- `私が鹿に変わって殺されれば、少しは止めるだろう
- `そう思い、こうして射られようとしていたのだ
- `だが残念にも射られなかった
- `と言うので、この男は、転げ回って泣き
- `これほど思っていただいたことを、あながちにしてしまいまして
- `と、その場で刀を抜いて、弓を斬り、背負いの矢筒などすべてへし折り、髻を斬り、そのまま聖について行き、法師となって、聖の生きている限り、聖に使われ、聖が亡くなると、代わって、またそこで修行をしていたという