八八易の占ひして金取り出したる事
現代語訳
- `旅人が宿を探していた折、荒れ果てた大きな家があるのを見つけ
- `ここに泊めて下さい
- `と訊くと、女の声で
- `どうぞ、お泊まりください
- `と返事があったので、皆馬から下りた
- `家は大きいが、人の気配がない
- `女は一人でいるらしかった
- `そうして、夜も開けたので、朝食をとり、出て行こうとすると、この家の女が出てきて
- `お出にはなれませんよ
- `留まって下さい
- `と言った
- `それはどうして
- `と問えば
- `あなたは金千両を借りています
- `それを払ってから出てください
- `と言うので、この旅人の従者らが笑って
- `そんなわけがあるか
- `言いがかりだ
- `と言うと、この旅人が
- `少し待ってください
- `と言い、また馬から下りて、旅荷入れを持って来させ、幕を張り、しばし後にこの女を呼ぶと、女は出てきた
- `旅人が
- `親御さんはもしかして、易の占いをしていましたか
- `と問えば
- `どうでしょうか
- `そのようなことをしていたかもしれません
- `と言うので
- `そうでしょう
- `と言い
- `それにしても、どうして
- `千両の金を借りたからそれを払え
- `などと言うのですか
- `と問えば
- `私の親が死に際、暮らしていける程度のものをくれた後
- `これから十年後の、何月にここに旅人が来て泊まる
- `その人は私から金を千両借りた人だ
- `その人からその金を受け取り、生活が苦しくなっていたら、物を売ってしのげ
- `と言ったので、今までは親が残してくれたものを少しずつ売りながら暮らしをたて、今年になって、売るべきものもなくなったまま
- `親の言っていた日が早く来るように
- `と待っていると、今日いらして泊まられたので
- `お金を借りている人だ
- `と思い、申し上げたのです
- `と言ったので
- `金のことは本当です
- `そういうこともあるでしょう
- `と、女を片隅に連れて行き、他の者には知らせないようにして柱を叩かせ、空ろに聞こえるところを
- `さあ、この中に、仰る金がありますから、開けて、少しずつ取り出してお使い下さい
- `と教えて出ていった
- `この女の親は易の占いが上手で、この女の将来の様子を占ってみたところ
- `あと十年ほどで貧しくなる
- `その月日に、易の占いをする男が来て泊まる
- `と考えたため
- `ここにこんな金があると告げて、早いうちから取り出し、浪費してしまっては、貧しくなってから使う金がなくなって路頭に迷うだろう
- `と、このように教えたので、女は親が死んだ後も、この家を売り失うようなこともなく、今日という日を待ち、この人をこのように責めたのだが、この旅人も易の占いをする者だったため、心を読み、占い出して教え、出て行ったのである
- `易の占いとは、将来を掌中のように指して、知ることなのである