一二一二児の掻餅するに空寝入したる事
現代語訳
- `これも昔の話、比叡山に稚児がいた
- `僧たちが夜の空いた時間に
- `ぼた餅でも食べよう
- `と言っていたのをこの稚児はわくわくしながら聞いていた
- `でも、できあがりを待つのに寝ないでいるのもみっともないし
- `と考え、部屋の隅で狸寝入りを決めこみ、できあがるのを待っていると、そのうち膳の用意ができたようでがやがや騒いでいる
- `この稚児が
- `きっと誰か起こしてくれるだろう
- `と待っていると、僧が
- `少々よろしいかな
- `起きてくだされ
- `と言ったのを
- `うれしいな
- `と思いつつも
- `たった一回で起きるのも待っていたんだなと思われそうだ
- `と考え
- `もう一度呼ばれたら起きよう
- `と思って寝たふりを続ければ
- `いや、起こしなさるな
- `お子様は眠ってしまった
- `と言う声がする
- `ああ、もう
- `と思い
- `もう一回起こしに来て
- `と思いつつ目をつぶって聞いていると、むしゃむしゃとひたすら食う音だけがするので、我慢がならず、ずいぶん経ってから
- `はいっ
- `と答えたので、僧たちは限りなく笑った