四二二金峰山薄打の事
現代語訳
- `昔、七条に箔打がいた
- `御岳詣をしていた
- `お参りし、岩が崩れて金が露出した所を通ったとき、ふと見れば、本物の金のようなものがあった
- `嬉しく思い、その金を取ると、袖に包んで家に帰った
- `削り下ろしてみればきらきらとして、本物の金であったため
- `不思議なことだ
- `この金を取れば、雷が鳴り、地震が起こり、雨が降るなどして絶対取れないはずなのに、これはそんなことがなかった
- `これからもこの金を取って暮らしの足しにしよう
- `と嬉しくなって、秤にかけてみれば十八両あった
- `これを箔にすると、七・八千枚になる
- `これをまとめて全部買う人はいないものだろうか
- `と思いつつ、しばらく持っていると
- `検非違使の人が
- `東寺の仏を造るのに箔をたくさん買いたい
- `と言っている
- `と告げる人があった
- `喜んで、懐に入れて出かけていった
- `箔はお要りですか
- `と言うと
- `いかほど持っているのか
- `と問うので
- `七・八千枚ほどでございます
- `と答えれば
- `持って参ったのか
- `と問うので
- `はい
- `と、懐中より紙の包みを取り出した
- `見れば、破れなく打ち延ばされ、色も美しかったので
- `広げて数えよう
- `と見れば、小さな文字で
- `金御岳、金御岳
- `と悉く書かれていた
- `得心がいかず
- `この書付けは、何のための書付けか
- `と問えば、箔打は
- `書付けなどございません
- `何のための書付けでございましょう
- `と答えたので
- `現にある
- `これを見よ
- `と見せたのを箔打が見ると、たしかにあった
- `いったいどういうことだ
- `と思い、口もきけなかった
- `検非違使は
- `これはただごとではない
- `わけがありそうだな
- `と、仲間を呼び寄せ、金を看督長に持たせると、箔打を連れて別当のもとへ行った
- `件の話を伝えると、別当は驚き
- `はやく河原へ連れて行き、問い質せ
- `と命じられたので、検非違使たちは河原へ行き、寄せ柱を立てて、体が動かないように磔をして、七十回拷問すれば、背中は紅の練単を水に濡らして着せたように、びしょびしょになり、さらに監獄に入れたので、わずか十日ほどで死んでしまった
- `その後、箔を金峰山に返し、元の所に置いたと語り伝えられている
- `それからは、人は恐れて、ますますその金を取ろうと思う人はなくなった
- `ああ恐ろしい