一〇四二同人仏事の事

現代語訳

`昔、伯の母が仏供養をした
`永縁僧正を招き、さまざまな物を奉る中に、紫の薄様に包んだものがあった
`開けてみれば
`朽ちてしまった長柄ののりのためにも渡すものです
`長柄の橋のきれであった

`翌日まだ早いうちから若狭阿闍梨・覚縁という歌詠みがやって来た
`なんと、もうこのことを聞いたのか
`と僧正が思っていると、懐から名簿を取り出して奉り
`この橋のきれをいただきたい
`と言った
`僧正は
`これほどの希重なものをどうして差し上げられようか
`というと
`どうして彼女はくだされたのでしょう
`口惜しい
`と帰っていった
`すきずきしく、あわれな話である