一三四五因幡国別当地蔵造りさしたる事
現代語訳
- `これも昔の話、因幡国は高草の郡、さかの里に寺院があった
- `国隆寺
- `と名づけられた
- `この国の前の国司ちかながが造ったものである
- `その土地に住む老人がこんな話を語った
- `この寺には別当がいた
- `家に仏師を呼んで地蔵を作らせていたとき、別当の妻が他の男にたぶらかされて、行方をくらましてしまった
- `別当はうろたえ、仏のことも仏師のことも忘れて里村を手分けしながら探し歩く間に七・八日経ってしまった
- `仏師らは施主を失い、空を仰いでただ何もせずにいた
- `その寺の庶務の法師がこれを見て、善心を起こし、食糧を求め集めてきては、仏師らに食べさせ、なんとか地蔵を彫り上げるところまでは進んだが、色付けや飾付けまではできなかった
- `その後、この専当法師は病を患って死んだ
- `妻子は泣き悲しみ、棺に納めながらも葬送せずに置いて、なおこれを見ていると、死んで六日後の未の刻頃に、突如この棺が動いた
- `それを見た人は恐れおののいて逃げてしまった
- `妻が悲しみながら開けてみると法師が蘇生しており、水を口に入れると、しばらく経ってから、冥土の話を始めた
- `大きな鬼が二人来て、自分を捕らえ、追い立てて、広い野を行くと、白い衣を着た僧が現れ
- `鬼共、この法師を速やかに許せ
- `我は地蔵菩薩である
- `これは因幡国の国隆寺にて我を造った僧である
- `仏師らが、食糧もなく毎日を過ごしていたとき、この法師が、信心を起こし、食糧を求め、仏師を養い、我が像を作ったのだ
- `この恩は忘れ難い必ず許すべき者である
- `と仰り、鬼共は自分を解放した
- `そして、細かく道を教えて帰してくれたと思ったら、生き返ったのだ
- `と言う
- `その後、この地蔵を妻子らが彩り、供養し奉って、長く信仰した
- `今も、この寺に安置されている