一九五一一条摂政歌の事
現代語訳
- `昔の話、一条摂政・藤原伊尹というのは東三条殿・藤原兼家の兄である
- `容姿をはじめ性格なども素晴らしく、才能や行儀も本物で、また色好みで女とも多く逢い楽しんでおられたのだが、少し軽々しく感じてもおられていたので、名を伏せ
- `大蔵丞豊蔭
- `と名乗り、賤しい女のもとへも手紙を出したりしていた
- `思いを寄せられたり、逢ったりしておられていたが、人々は皆心得て、よく知っていた
- `貴人の家の素晴らしい姫君のもとへ通い始めた
- `乳母や母親などを味方につけ、父親には知らせずにいたが、父親がそれを聞きつけ、ひどく腹を立て、母親を責め苛み、爪弾きをしてひどく責められると
- `そのようなことはありません
- `と言い争えば
- `まだしきよしの手紙をお書きください
- `と母君が困って言ってきたので
- `人知れず、身は焦るのに年を経て、なぜ越えられぬ逢坂の関
- `と読み遣し、父親に見せると
- `さては、噂は空言であったか
- `と思って、父親がこう返した
- `東路に行き交う人ではないこの身、越えることない逢坂の関
- `と詠まれたのを見て
- `微笑んだであろう
- `と一条摂政御集にある
- `おもしろい