二〇五二狐家に火つくる事
現代語訳
- `昔、甲斐国守の屋敷に仕えていた侍が、夕暮れに屋敷を出、家へ戻る途中の道で狐と出くわしたので、追いかけて、蟇目の矢で射ると、狐の腰を射当てた
- `狐は射転ばされて、鳴きながら、腰を引きずりつつ草むらに逃げ込んだ
- `男が蟇目をつがえて追いかけると、狐は腰を引きずりながら先に立って走るので、また射ようとすると、いなくなってしまった
- `家が、あと四・五町ほどになった辺りで、この狐が二町ほど先を火をくわえて走っているので
- `火をくわえて走っている、どういうことだ
- `と、馬を走らせたが、家に走り寄ると、人になって、家に火をつけた
- `人がつけているんだ
- `と、矢をつがえ、馬を走らせたが、つけ終えると、狐になって、草むらに駆け込み、いなくなった
- `そうして家は焼けてしまった
- `こんなものも、たちまち仇を返すものである
- `これを聞いて、このようなものを決して懲らしめてはならない