二五四佐渡国に金ある事
現代語訳
- `能登国には、鉄という金属の素鉄という状態のものを採り、国守に献上する者が六十人いた
- `藤原実房という守の任期中、鉄採り六十人の御頭が
- `佐渡の国にこそ、金の花の咲く場所がある
- `と人に語っているのを守が伝え聞き、その男を呼んで、物を与えたりしてすかしながら尋ねれば
- `佐渡の国には本物の金があります
- `ある場所は見届けてあります
- `と言うので
- `では、行って採ってこないか
- `と言うと
- `遣わされるなら、行きましょう
- `と言った
- `では舟を用意しよう
- `と言うと
- `供はいりません
- `一艘の小舟と少しばかりの食糧をいただければ、行って、うまくいったら採って戻ります
- `と言うので、この言葉に任せ、人には内緒で、一艘の小舟と少しの食糧を用意させると、男はそれで佐渡の国へと渡った
- `一月ほどして、忘れた頃に、この男がふと現れ、守に目配せをすれば、守は心得、人伝には受け取らず、自ら出向くと、袖移しに黒ずんだ布に包まれた物を持たせたので、守は、それを重たげに引き下げて、懐へ入れ、戻って行った
- `その後、その金採りの男は、どこへともなく消え失せた
- `あちこち尋ねてみたが、行方も知れず、そのままになった
- `どう思って消え失せたのかわからない
- `金のある場所を訊かれるとでも思ったのか
- `と疑った
- `その金は千両ほどあったと語り伝えられている
- `そんなことから
- `佐渡の国には金がある
- `と、能登の国の者どもは語ったという