六五八東北院菩提講の聖の事
現代語訳
- `東北院の菩提講を始めた聖は、もとはひどい悪人で、牢獄に七度も入った
- `七度目というとき、検非違使らが集まり
- `これは極悪人だ
- `一・二度でさえ投獄されるというのは人としてどうかと思うのに
- `ましてや繰り返し罪を犯し、七度になるとはとんでもないことだ
- `今度は足を切ってしまえ
- `と定めて足切りに連れて行き、切ろうとすると、そこに立派な人相見が現れた
- `その者がそこへ来て、足を切ろうとする者たちに近寄り
- `この人を我に免じて許されよ
- `この人は必ず極楽往生する相が出ておる
- `と言うので
- `戯言を言う、わけのわからぬ人相見をする坊さんだ
- `と言って、すぐ切りにかかれば、切ろうとする足の上にのぼり
- `この足の代わりに、我が足を切れ
- `極楽往生すべき相ある者の足を切らせるのを、見てはおれぬ
- `おうおう
- `と喚いたので、切ろうとする者らも対応に困り、検非違使に
- `こんなことがあるのです
- `と言えば、やんごとない相人の言うことなので、さすがに聞かぬわけにもいかず、別当に
- `こんなことがあるのです
- `と言うと
- `では許してやれ
- `と言ったので、男は許された
- `そのとき、この盗人は発心し、法師となり、すぐれた聖となって、この菩提講をはじめたのである
- `たしかに相は当たり、見事に往生を遂げた
- `だから、名を上げる人物は、その相があっても、その辺の人相見が見るものではない
- `始めた講が今日まで絶えないのは、実にたいしたものである