一〇六二篤昌忠恒等の事
現代語訳
- `これも昔の話、民部大輔篤昌という者がいた
- `法性寺・藤原忠道殿の時代、蔵人所の所司によしすけとかいう者がいて、篤昌を役に就かせようとしたところ
- `自分はこのような役をすべき者ではない
- `と、参上しなかったため、所司が小舎人を大勢引き連れ、厳しく促すと、参上してきた
- `すると、まず
- `所司に物申す
- `と呼んだので、出向いてみれば、死ぬほど腹を立て
- `こんな役回りをお与えになるとはどういうことか
- `そもそも、篤昌を何者とお思いなのか
- `承ろう
- `と、しきりに責めたてたが、しばし何も言わずにいるので、声を荒げて
- `申されよ
- `まず、篤昌の立場を承ろう
- `とひどく責めたてたので
- `別のことでもない
- `民部大夫五位の鼻が赤いことだけは知り申す
- `と言うと
- `うっ
- `と言って逃げてしまった
- `また、この所司がいる前を、忠恒という随身が奇妙な格好で練り歩いているのを見て
- `わきまえある随身の姿だな
- `と小声で言ったのをすかさず聞きつけた随身が所司の前に立ち戻り
- `わきまえあるとは、いかなるつもりで申されたのか
- `と咎めると
- `自分は人のわきまえのありなしも知らないが、ただいま武正府生が通られたとき、ここの人々が
- `わきまえのない者の姿だな
- `と言い合わせたが、少しもそうは思われないので
- `さては、わきまえがおありなのかな
- `と思い、申した
- `と言えば、忠恒は
- `うっ
- `と言って逃げてしまった
- `この所司に
- `あら所司
- `というあだ名をつけたという