一一八〇仲胤僧都地主権現説法の事

現代語訳

  1. `これも昔の話、仲胤僧都を、比叡山の僧らが、日吉神社の二の宮における法華経供養の法会の導師に招いた
  2. `説法は実に見事なもので、終わりごろ
  3. `地主権現が申せと仰ることには
  4. `と切り出し
  5. `比経難持
  6. `若暫持者
  7. `我即歓喜
  8. `諸仏亦然
  9. `という文を声を張り上げて誦し
  10. `諸仏
  11. `というところを
  12. `地主権現が申せと仰ることには
  13. `我即歓喜
  14. `諸神亦然
  15. `と言うと、数多集まった僧らは異口同音に声をあげ、扇を開いて賞賛した
  1. `さて、日吉神社の御開帳において、各々が御神体の前で千日講を催し、二の宮へのために行っていた折、ある僧がこの句を少しも違わず誦したことを、ある人が仲胤僧都に
  2. `こんなことがありました
  3. `と語ったところ、仲胤僧都はけたけたと笑い
  4. `それは、これこれの時に私が誦した句だよ
  5. `うはは
  6. `と笑って
  7. `世間では、近頃の説教を
  8. `犬の糞説教
  9. `と言うぞ
  10. `犬は人の糞を食って、糞をひる
  11. `仲胤の説教をとって、近頃の説教師はするから
  12. `犬の糞説教
  13. `というのだ
  14. `と言った