九一二二小槻当平の事
現代語訳
- `昔、主計頭・小槻当平という人がいた
- `その子に大学寮で算術を教える者がいた
- `名は茂助という
- `主計頭忠臣の父で、淡路守大夫史・奉親の祖父である
- `長生きしたら頭角を現すべき人物なので
- `なんとか亡き者にできぬものか
- `この男に出世されたら、主計頭・主税頭・助・大夫史には、他の者らでは肩を並べることができまい
- `代々の役職である上、才知に長け、気立てもよく、六位ながら、世の評判も高まっているとなれば、死んでもらわねばならん
- `と思う人もあり、この人の家に神託をしたときに、その時の陰陽師に尋ねれば、厳重に慎むべき日を書き出し、手渡したので、そのまま門を堅く閉ざし、物忌みをしていると、敵対する者は隠れて陰陽師に死ぬ呪いをかけるように依頼し、呪いをかける陰陽師の
- `物忌みしているのは慎むべき日だからでしょう
- `その日に呪い合わせれば、効き目があるはずです
- `そこで、私を連れてその家へ参り、呼び出してください
- `門は物忌みならばよもや開けますまい
- `しかし、せめて声だけでも聞ければ、必ず呪いの効き目はあります
- `との言葉に従い、陰陽師を連れてその者の家へ行き、門をしきりに叩けば、下男が現れ
- `どなたです
- `門を叩くのは
- `と言うので
- `私が特に用があって参りました
- `厳重な物忌みではありますが、細めに開けて入れてください
- `大切な用事なのです
- `と言うと、下男は奥へ引き込み
- `こんなことを申しております
- `と告げれば
- `無茶な話だ
- `世の中に自分を大切に思わぬ者があるものか
- `入れることはできぬ
- `まったく無理なことだ
- `早く帰られよ
- `と言わせたので、再び現れてその由を伝えると
- `それならば、門を開けられずともその遣戸から顔をお出しください
- `自ら伺います
- `と言ったが、死ぬべき宿世であったのか
- `何事か
- `と、遣戸から顔を差し出せば、陰陽師が、その声を聞き、顔を見て、力の限りに呪った
- `この会おうと言った人は
- `とても大事なことを話す
- `とは言ったものの、話すこともなかったので
- `これから田舎へ参りますので、その由を話そうと参りました
- `もう入って結構です
- `と言うと
- `大事なことでもないことなのに、こうして人を呼び出すとは、まったくふざけた人だ
- `と言って入った
- `それからまもなく、頭痛をわずらい、三日目に死んでしまった
- `だから、物忌みには声高によその人に会ってはならない
- `このように呪いをする人のためには、それにつけて、こういうことをするのは、実に恐ろしいことである
- `そして、その呪い事をさせた人も、いくらもしないうち災いに遭って死んでしまったという
- `身に負ってしまったのだろうか
- `恐ろしいことだ
- `と、人は語った