五一二八白河法皇北面受領の下りのまねの事
現代語訳
- `これも昔の話、白河法皇が鳥羽殿にいらした時
- `北面の武士らに任国へ下る真似をさせ、御覧いただこう
- `と、玄蕃頭久孝という者を国司に仕立て、衣冠に出衣をまとわせ、他の五位らに前駆をさせ、近衛府の者らに胡録を背負わせれば
- `御覧あれ
- `と各々錦や唐綾を着、我劣らじと気張っていたが、そのとき、左衛門尉・源行遠は、特に気合の入った出で立ちで
- `はじめから人の目についていては、目が慣れてしまうだろう
- `と、御所に近い人の家に入って従者を呼び
- `おい、御所の周辺の様子を見て来い
- `と言って、見に行かせた
- `ところが一向に帰ってくる気配がない
- `どうしてこんなに遅いのか
- `辰の刻に催されるはずだ
- `いくら遅れても午未の刻頃には渡ってくるはずなのに
- `と思いながら待っていると、門の方で声がし
- `ああ、なんとも見事だった、なんとも見事だった
- `と言っている
- `ただ見物に行く者たちのことだろう
- `と思っていると
- `玄蕃殿の国司姿こそ、見事なものであった
- `と言う
- `藤左衛門殿は錦を着ておられた
- `源兵衛殿は刺繍を施し、金の紋をつけて
- `などとも語った
- `どうもおかしいと感じ
- `おい
- `と呼べば、この
- `見て来い
- `と遣った男が、にこにこしながら出てきて
- `実にこれほどの見物はありませんでした
- `賀茂祭など物でもありません
- `院の桟敷の方へ渡って行かれる様は、目も眩むほどでした
- `と言った
- `で、どんな様子だ
- `と問えば
- `すっかり終わってしまいました
- `と言う
- `なんということだ
- `来て何も言わなかったではないか
- `と言えば
- `これは異な仰せですね
- `行って見て来い
- `と仰せでしたので、瞬きもせず、しっかりと見て参ったんです
- `と言った
- `あきれて言葉が出なかった
- `その後
- `行遠は行列に参加せず、返す返すも不届きである
- `罰として必ず監禁せよ
- `と仰せられて二十日あまりが過ぎた頃、この次第をお聞きになると、お笑いになって、監禁は解かれたという