三一三八慈恵僧正受戒の日延引の事
現代語訳
- `慈恵僧正が座主の時、受戒を行うべき定めの日にいつものごとく催しを設け、座主の出仕を待っていたところ、途中から急に帰ってしまったので、供の者らは
- `どうしたんだ
- `と不審に思った
- `宗徒や識衆も
- `これほどの大事で日も決まっていることを、今になって、さしたる障りもないのに延期なさるとはけしからん
- `とひどく非難した
- `諸国の沙弥らまでことごとく集まり、受戒を待っていると、横川の小綱を使いにして
- `本日の受戒は延期とする
- `日を改めて催しは執り行う
- `と仰せ下されたので
- `どうして中止なさったのですか
- `と尋ねた
- `使いは
- `まったくその理由はわからない
- `とにかく急いで走っていって、この由を申せとだけ仰ったのです
- `と言った
- `集まった人々は、各々得心がいかないまま退散した
- `すると、未の刻頃に大風が吹き、南門が俄に倒れた
- `そのとき人々は
- `このことがあるだろう
- `と事前に悟って延期されたのだな
- `と思い合わせた
- `受戒が行われていたら多くの人は皆殺されていただろう
- `と感じ入って騒いだ