四一三九内記上人法師陰陽師の紙冠を破る事
現代語訳
- `内記上人寂心という人がいた
- `道心堅固の人である
- `堂を造り、塔を建てることが最上の善根である
- `と、修繕などの金を募った
- `材木を播磨国に行って手に入れた
- `そこで法師陰陽師が紙冠を着けて祓えをするのを見つけ、慌てて馬から下りて駆け寄り
- `何をなさっている方なのですか
- `と問うので
- `祓えをしているのです
- `と言った
- `なぜ紙冠を着けているのですか
- `と問うので
- `祓戸の神々は法師を嫌われるので、祓えの時はしばしこれをしているのです
- `と言うと、上人は声をあげて大いに泣き陰陽師につかみかかったので、陰陽師は思わず仰天し、祓えを途中でやめて
- `なにをなさるのですか
- `と言った
- `祓えをさせる人もあきれていた
- `上人は冠を取って引き破り、泣くことこの上ない
- `なんと心得て、そなたは仏弟子となり
- `祓戸の神々が憎まれる
- `と言って、如来の嫌われることを行い、しばしの間といえども無間地獄の罪業をつくられるのか
- `まったく悲しいことだ
- `もう私を殺せ
- `と言って、取り付いて泣くことはなはだしい
- `陰陽師は
- `仰ることはごもっともです
- `生きづらい世の中なので、やむを得ずこうしているのです
- `そうでもしなければ、どうやって妻子を養い、我が命を長らえられましょう
- `道心がないので上人にもならず法師の姿でおりましても、俗人のごときですから、後世はどうなることやらと不安でもありますが、これも世の習い、仕方なくこうしているのです
- `と言う
- `上人は
- `たとえそうだとしても、どうして三世如来の御首に冠をなさったのか
- `不幸に耐えられずこのようなことをするのなら、堂を造るために勧進し集めたものをそなたに与えよう
- `一人を菩提に勧めれば、堂や寺を造るに勝る功徳である
- `と言って、弟子たちを遣わして
- `材木を手に入れよう
- `と勧進し集めたものをすべて運び寄せ、この陰陽師に与えた
- `そして我が身は京へと上った