五一四〇持経者叡実効験の事
現代語訳
- `昔、閑院大臣殿が三位中将の時、重い瘧を患ったことがあったが
- `神名という所にいる叡実という持経者が瘧をよく祈り治す
- `と言う人がいたので
- `この持経者に祈らせよう
- `と行こうとすれば、荒見川の辺りで早くも発作を起こした
- `寺も近くなり
- `ここから帰りようがない
- `と、我慢して神名まで行き、坊の軒に車を寄せて案内を申し入れると
- `近頃、蒜を食べたので不浄の身です
- `と言う
- `それでも
- `なんとか上人にお目にかかりたい
- `今から引き返すことはできません
- `と言うと
- `では、早くお入りください
- `と、坊の下ろし立ててある蔀を取って新しい筵を敷き
- `お入りください
- `と言ったので、中へ入った
- `持経者は沐浴をし、しばらくしてから出て会った
- `背の高い僧で、痩せこけており、見るからに貴げである
- `僧は
- `風邪の具合がひどかったので、医師の言葉に従い、蒜を食べておりました
- `しかしこうしてお出でになられたので、どうしてもと思い、出て参りました
- `法華経は浄不浄を嫌わぬ経ですので、読み奉りましょう
- `なにも問題はありますまい
- `と、数珠を揉み摺り、そばへ寄れば、なんとも頼もしい
- `額に手を当て、自分の膝を枕にさせて、寿量品を高い声を出して読む声は実に貴い
- `これほど貴いことがあったのか
- `とさえ思える
- `少しかすれた声高に誦す声は感動的であった
- `持経者は目から大きな涙をはらはらと落として限りなく泣いた
- `そのとき童病は落ちて、とても爽やかな心地となり、すっかり快復した
- `そして何度も後世まで契り、帰って行った
- `それから効験があるという評判が高まり、広まったという