六一四一空也上人の臂観音院僧正祈り直す事
現代語訳
- `昔、空也上人が、申すべきことがあって、一条大臣・源雅信殿のもとへ参り、蔵人所に上っていた
- `余慶僧正も居合わせた
- `雑談などをしていると、僧正が
- `その腕はどうして折られたのですか
- `と尋ねた
- `上人は
- `幼少の時、私の母が怒り、片手をつかんで投げたので、折れてしまったと聞いております
- `幼い時のことなので覚えておりません
- `左で助かりました
- `右腕を折っていたら
- `と言った
- `僧正が
- `御僧は貴い上人でおいでです
- `天皇の御子である
- `と人は言います
- `実にもったいないことです
- `御腕を祈り治して差し上げようと思いますが、いかがなものでしょうか
- `と言うと、上人が
- `ありがたく思います
- `とても貴いことです
- `どうかご祈祷をお願いします
- `と近くに寄ったので、殿中の人々も集まり、これを見た
- `そして、僧正が頭の上から黒煙を出して祈祷を行うと、少し後に曲がった腕が
- `ぴん
- `と音を立てて伸びた
- `すなわち右の腕のようにに伸びたのである
- `上人涙を流して三度礼拝した
- `見る者は皆感動し、声を上げたり、涙を流したりした
- `その日、上人は若い聖三人を連れていた
- `一人は縄を取り集める聖である
- `道に落ちている古い縄を拾い、壁土に加えて、古い堂の壊れたところに塗る
- `一人は瓜の皮を取り集め、水洗いをし、獄衆に与える
- `一人は不要な紙の落ちているのを拾い集め、紙にして経を書写し奉る
- `その紙拾いの聖を、腕が治った代わりに布施として僧正に奉ると、喜んで弟子にして
- `義観
- `と名づけた
- `ありがたいことである