一二一四七高忠の侍歌詠む事
現代語訳
- `昔、高忠という越前守の時代にとても不幸な侍がおり、昼夜勤勉であったが、冬でも帷子を着ていた
- `雪の多く降る日、この侍が、清めるべく、物でも憑いたようにふるうのを見て、守が
- `歌を詠め
- `趣深く降る雪だ
- `と言うと、この侍は
- `何を題に詠みましょう
- `と言うので
- `裸である由を詠め
- `と言えば、ほどなく、震える声を張り上げて詠みはじめた
- `はだかなる、我が身にかかる白雪は、うちふるえども、消せたりしない
- `そう詠むと、守はたいへん褒めて、着ていた衣を脱いで与えた
- `北の方も気の毒がって、薄色の素晴らしい衣を与えると、二つとも受け取って、丸めてたたみ、脇に挟んで立ち去った
- `詰め所へ行けば、居並ぶ侍たちが、驚きあやしんで尋ね
- `しかじか
- `と、理由を聞いてあきれた
- `この侍は、その後姿が見えなくなってしまったので、怪しんで、守が探させると、北山に尊い聖がおり、そこを訪れていた
- `そして、この得た衣を二つとも差し出し
- `すっかり年老いてしまった身の不幸は、年を追うごとに増えていきます
- `この世では益のない身でありました
- `後生こそは
- `と思い、法師になろうと思っていましたが、戒律を授けてくださる師が見つからなかったため、今まで過ごしてしまいましたが、こうして思いがけぬ物をいただいたので、たいへん嬉しく思い、これを布施として差し上げるのです
- `と言い
- `法師にさせてください
- `と涙にむせ返りながら、泣く泣く言ったので、聖は、たいへん尊がり、戒律を授けて法師にした
- `そして、そこから、行く先もないのに姿が見えなくなってしまった
- `居所知れずになったという