一三一四八貫之歌の事
現代語訳
- `昔、紀貫之が土佐守で任国に下っていたときのこと、任期の果てる年に、七・八歳ばかりのなんともいえず可愛い子をこの上もなくいとおしんでいたが、しばらく患って死んでしまったため、泣き惑い、病むほどに思い焦がれているうちに、月日が経ってしまったので
- `こうしてばかりはいられない
- `上京せねば
- `と思うものの
- `子供はここであんなことやこんなことをしていたっけ
- `などと思い出され、ひどく悲しかったので、柱に
- `都へと、思うにつけてかなしきは、帰らぬ人のあるゆえこそだ
- `と書きつけた歌が今でも残っている