一八一五三貧しき俗仏性を観じて富める事
現代語訳
- `昔、唐の田舎に一人の男がいた
- `家は貧しく宝もない
- `妻子を養う力もない
- `求めても得られなかった
- `そうして年月が過ぎた
- `思い悩んで僧に会い、宝を得るすべを尋ねた
- `知恵ある僧だったので
- `そなたが宝を得ようと思うなら、ただまことの心を起こすべし
- `そうすれば宝も増え、後世は良い所に生まれよう
- `と答えた
- `この人が
- `まことの心とはどのようなものですか
- `と問うと、僧は
- `まことの心を起こすというのは他でもない、仏法を信ずるにあり
- `と答えたので、また
- `それはどうすることですか
- `しっかり教わり、得心して、それを頼みに思い、二心なく信心し、お願いをします
- `教えてください
- `と言うと、僧は
- `我が心はこれ仏なり
- `我が心を離れては仏はなし
- `よって我が心の故に仏はおいでである
- `と言ったので、手をすり合わせ、泣く泣く拝み、それからこのことを心にかけて昼夜思えば、梵天、帝釈天をはじめ諸天が現れてお守りになったため、思いがけず宝が手に入り、家の中が豊かになった
- `臨終には、いよいよ心に仏を念じ入り、極楽浄土へすみやかに赴いた
- `このことを聞き見た人は、尊び愛したという