九一八二大将慎しみの事
現代語訳
- `これも昔の話
- `月の大将星を犯す
- `という勘文を天文博士が奉った
- `そのため
- `近衛大将は重く慎むべし
- `ということで、小野宮右大将・藤原実頼はさまざまな祈祷を行い、春日神社や山階寺などにもたくさん祈祷した
- `その時の左大将は枇杷左大将・藤原仲平という人であった
- `東大寺の法蔵僧都はこの左大将の祈祷の師である
- `きっと祈祷の依頼があるだろう
- `と待っていたが、なんの音沙汰もないので、気になって京へ上り、枇杷殿に参上した
- `殿が会い
- `何事で参ったのか
- `と言うので、僧都が
- `奈良で承りましたところ
- `左右大将慎まれるべし
- `と天文博士が勘文を奉ったということで、右大将殿は春日神社や山階寺などにさまざまな御祈祷をなさいました
- `殿からもご依頼があるはず
- `と様子を尋ねましたが
- `そのようなことは承っておりません
- `と皆が申しますので、気になったので参ったのです
- `やはり、ご祈祷なさるのがよいかと存じます
- `と言えば、左大将は
- `まったくそのとおりだ
- `だが、わしはこう思う
- `大将慎むべし
- `と申すようだが、たしかに慎むというのは右大将のためにはよからぬことだ
- `あの大将は才知も長けている
- `年も若い
- `政を仕るべき人物である
- `わしはそんなこともない
- `年も老いた
- `どうなろうと別にたいしたこともないと思うから、祈らぬのだ
- `と言われると、僧都はほろほろと泣いて
- `百千の祈祷に勝りましょう
- `その御心のままお過ごしなされば、事の恐れなどございますまい
- `と言って席を退いた
- `だから、たしかに何事もなく、大臣になり、七十歳の余まで生きられた