一八七賀茂祭のかへり武正兼行御覧の事

現代語訳

  1. `これも昔の話、賀茂祭の供に下野武正と秦兼行を遣わした
  2. `その帰り、法性寺殿・藤原忠通が紫野でご覧になっていると、武正と兼行は殿下がご覧になっていると知り、精一杯格好をつけて渡った
  3. `武正は、殊に気取って渡る
  4. `次に兼行がまた渡る
  5. `各々とりどり様子は言葉にできないほどである
  1. `殿がご覧になって
  2. `もう一度、北へ渡れ
  3. `と仰せつけると、また北へ渡った
  4. `しかし、そのままではいられないので、また、南へ帰り渡るとき、今度は兼行が先に南へ渡った
  5. `次に武正が渡るだろう
  6. `と、人々は待っていたが、武正は長い間姿が見えなかった
  7. `どうしたんだろう
  8. `と思っていると、向かいに引いた幔幕より東を渡っている
  9. `どうした、どうした
  10. `と待つほどに、幔幕の上から冠のてっぺんの巾子だけが見え、南へ渡って行くので、それを見た人々は
  11. `すちなき者の心遣いだ
  12. `と褒めたという